「伝統=守る」ではない ニーズに合わせて進化していく
[株式会社安本武司商店]
今回の企業インタビューは、「株式会社安本武司商店」さん。
安本武司商店さんは、京都府下京区にて繊維総合卸や法衣繊製を行われている会社です。
常務取締役の安本さんとプラスワンのインターン生がイベントで知り合い、すぐに取材が決まりました。
知り合って二週間で快く取材をお受けしていただきました。
今回は常務取締役の安本純子さんだけでなく、まさかの代表取締役社長様にもインタビューにお答えいだきました。
常務の安本さんにインタビュー
株式会社安本武司商店
常務取締役 安本純子さん
青山学院大学法学部卒。
外資系メーカーで広報や広告、販売促進
などのプロモーションに携わった後、当社に入社。
座右の銘 義を見てせざるは勇無き也。
──今回急ではありましたが取材に応じて下さって本当にありがとうございます。
本日はよろしくおねがいします!
安本:はい。よろしくお願いします。
取り扱う法衣は全宗派!
──安本武司商店さんの事業内容についてお聞かせください。
安本:弊社は和装向けの生地の専門商社です。
専門商社は流通用語で卸売業のことで、直接商品を使う人から見えないポジションです。
和装と言いますと、一般の方はたいてい呉服を連想されますが、弊社では婚礼衣装や法衣の生地の取り扱いをおこなっています。
法衣に関しては生地の取り扱いだけでなく、縫製部も設けておりまして、実際に法衣を作っております。
法衣に関しては宗派によって法衣の形や生地に違いがあってお坊さんの位によっても使える色が異なっているんですよ。
法衣は多種多様で、イメージし易いのは春や秋のお彼岸やお盆のシーズンですかね。バイクなどに乗って黒い格好で走る姿をよく見ませんか。
――確かによく見ます!ちなみに御社では何種類ぐらいの法衣を取り扱っているのですか?
安本:法衣の形は20種類ほどを取り扱っていますね。
法衣を取り扱っている会社は日本全国にありますが、京都は本山が多いので企業が集中しています。
多くの企業は何々宗を取り扱っているなどと1つの宗派だけを取り扱っていることが多いんです。
ですけれども、「弊社ではどの宗派でもいけますよ。」というのが技術的なアピールポイントで、そこが強みですね。
またうちのように「どの宗派でも行けますよ」となると、取り扱える企業がガクンと減りまして、いわゆる競合他社が全国で10社ないといわれております。
安定した市場と協力しやすい職場環境
――企業の魅力を教えてください。
安本:市場自体はそんなに大きくありません。
1930年代から2010年代で大きな変化はありませんでした。
日本経済が大きく変化しているにもかかわらず、お坊さんの数はそれほど変化していないので、
規模は大きくないが安定している市場と言えます。
また弊社は人数規模が20名程の会社で正社員は半分ほどです。
正社員パートとはわけ隔てなく、それぞれの顔が見えるからどんな状態かわかりやすく把握しやすいです。
そのため何かが起きても臨機応変に対応でき、協力しやすいことが魅力ですね。
あと、これだけの人数しかいないので一人一人のスキルは幅広く求められることも多いです。
きちっと各自の役割を分けられた大手さんであれば、どの担当○○部というようにしっかり決められていますよね。
弊社の場合縫製部、営業部というのはございますが、何か他のことがでてきたら、挑戦してみたい人がやったり「一緒に仕事してくれない?」などと協力しやすい環境にあると思います。
――幅広いスキルが身につくということでしょうか。
安本:そうですね、それは絶対言えると思います。
だからチャレンジしたいという意欲があって自分で手を上げれば、いくらでもチャンスがありますし、社長自身も誰に対しても分け隔てなく意見を聞きます。
新入社員からすればびっくりするかもしれないですけど、考えがまとまっていなくても「現時点でいいから」いう風に一旦聞いてくれます。
そういった意味では良い意味でトップとの距離が近いのかもしれません。
安心してスキルを身につけていける
——新入社員の教育などってどうしてるんですか?
安本:入社していきなりやらせっ放しということはないです。
OJTという手法をとって計画を持って取り組んでいてまずは数ヶ月ベースの教育計画を持って仕事をやってもらいます。
それに対して1ヶ月ごとに進展のレポートを教わる側・教える側の双方が書いてそれに基づいて面談をおこないます。
月一回、社長や各部代表が参加するTOPミーティングがあるのですが、そこの議題に載せていますので全社的に育成の状況というのは把握しています。
また例えば営業部に配属されても縫製の知識が必要と思われたら全体で協力することができます。
※(OJT:On-the-Job Training、オン・ザ・ジョブ・トレーニング)または現任訓練(げんにんくんれん)とは、職場で実務をさせることで行う従業員の職業教育のこと。企業内で行われるトレーニング手法、企業内教育手法の一種。
——新入社員の成長段階をちゃんと常にトップが把握しているということですね。
安本:そうですね。一人一人の業務の幅が広く、社員に求めることも多岐に渡ります。
できないなーということを教えているだけでは範囲が広すぎるので、いろんな方面からサポートする。
そして窓口は基本 OJT リーダーというやり方をとっています。
平均勤続年数は10年以上!
——現在の社員さんの雰囲気や企業風土があればお伺いしてもいいですか。
安本:企業風土としては、落ち着いた社員が多いです。
また年齢構成も平均年齢で言うと37.5歳と割と高いので落ち着いています。
あとは真面目な方が多いですね。
——新卒の獲得について意欲的とお伺いしました。
新卒を獲得するためのアイデアは何かお持ちですか。
また獲得したいという理由も聞きたいなと思います。
安本:理由としては平均年齢がアラフォーということで、ありがたいことに一旦入社していただくと勤続年数が比較的高いんです。
——みなさん勤続年数はどれくらいですか。
安本:勤続年数の平均は10年を超えます。
現状1年毎に平均年齢が上がっていってしまい、年齢構成がどんどん上がっていきます。だから若手を増やしたいな、ということで新卒を積極的に採用しています。
——僕も初めてこういった業界のお話を聞いてもっと様々な業界を見ておけば良かったなと思いました。
——安本武司商店さんは80年続く企業様ということで、長年ご活躍される秘訣や具体的な取り組みや考えなどがあれば教えて頂きたいです。
安本:せっかくなのでそこについてはのちほど、社長に詳しく述べてもらおうと思います。
——え!?いいんですか!?ありがとうございます!
——安本さん、就活生に一言あればお願いします!
安本:弊社は知る人ぞ知る企業かと思いますが結構頑張ってる会社なので、一緒に働いてみませんか?
——ありがとうございます。
まさかの安本賀一社長登場!
株式会社安本武司商店
代表取締役社長 安本賀一
やすもとよしかず 1968年生まれ。
摂南大学工学部経営工学科卒業
外資系メーカーを経て当社に入社。
2011年に代表取締役社長に就任。
<座右の銘>半ばは自己の幸せを、半ばは他人の幸せを
お忙しいのにも関わらず、折角なのでと常務取締役の安本さんが代表取締役社長の安本賀一さんを呼んで下さり急遽インタビューを受けて下さりました!
――はじめまして! 急遽インタビューとなりましたが、ありがとうございます!
本日はよろしくお願い致します!
社長:はい。お願いします。
「伝統=守る」ではない
――社屋を新しくされたとの事でしたがその狙いや今後の展望はどのように考えていますか?
社長:自動裁断機(CAM)を導入したからです。
この裁断機が非常に大きくて8m×2mほどあり、現在の社屋には入らないという問題がありました。
今メインにしている手裁断では品質が人によって左右されることがあります。自動裁断機を導入することで品質の安定化と生産力のアップを図っています。
この業界では自動裁断機は珍しいですが、チャレンジです。
――経営理念や伝統についての考え方を教えてください。
社長:「伝統=守る」といった意識ではなく、その時代にあったものに対応し、柔軟にそして進化していくイメージです。
昔ながらの形にこだわって残していくっていうのもあるんでしょうけど、それにこだわっていては残りたくても残っていけない。
時代に必要とされなければ淘汰されて当たりまえです。
今、着物などは観光客の方などがレンタルをして楽しまれてます。
自分では買わないけれども着物の良さは感じてくれている方も多いので、このままみすみすなくなるのも悔しいですよね。
なので、その時代に即して残していけたらうれしいと思っています。
時代の流れと価値観の違い
―――創業されて80年ということで、それまで時代も大きく変わってきたと思います。その中で最大のピンチはありましたか?
社長: 今が一番ピンチかもしれないですね。
というのも結婚式やお葬式、こういった儀礼式というものはなくならないだろうと思っていたんですが、結婚式が随分前から簡単になったり、そもそも式を挙げなくなってきていますよね。
またお葬式まではなくならないだろうと思っていたのですが、ここ4~5年ぐらいで、葬儀自体が簡略化された葬儀が増えています。
まさか文化的な部分まで失われていくとは思っていなかったですね。
けれども文化は大切にしていかなければと、この国の一国民として思っています。
――そうなんですね。
やはり時代の変化も相まってそういった儀礼式にお金をかけられないという人は増えてきていると思います。
他に時代の流れを感じるエピソードはありますか?
社長:年配の住職の方と若い住職の方の価値観の違いです。
さきほど自動裁断機の話をしましたが、やはり和裁というものは手縫いが基本です。
年配の方などはこだわりが強い方が多く、「ミシンで縫うのは邪道」、「手で縫っているほうが重みを感じる」という方もいらっしゃいます。
双方メリット・デメリットはあります。
たとえば手縫いのメリットであれば、面倒くさいというのはありますが、和装のいいところは洋服と違ってサイズが自由、調整できる、縫い直しができる。
あと、正絹の法衣であれば染め替えができる。
ただその形のまま染めてしまえば色にムラができてしまうので一度ほどいて、染めることでムラなく染め上げることができます。
そうすれば、染めなおしをして住職から次の住職へと引き継いでくこともできます。
――法衣だけではなく、先代の想いを受け継ぐような感じですね。渋いです。
社長:今では和裁ができる職人が少なくなっているので、だんだんとミシンが主流になってきてはいます。
ただこの部分だけは手縫いでという方もいます。
着る繊維にしても、やはり位の高い住職さんはシルク(絹)を好まれます。
それに比べて普段我々が着ているポリエステルは安いのでやはり、格下にみられてしまうというか…。
価格帯もやはり違うのでそういうのはありますね。
そういうこだわりもあって、20年前までは「うちは化繊はつかわないし」というところもありました。
――そうなんですか。今は変わってきてはいるんでしょうか?
社長:そうですね。
今は若い住職の方も増えてこだわりがないというか、むしろ化繊の方が手軽に洗濯できるからそちらを選ぶというお客様もふえています。
0から最後まで仕事ができる楽しさ
――御社の魅力について教えてください。
社長:中小企業全般に言えることかもしれませんが、やはり規模が小さい分、自分がやりたい仕事というのはしやすいのかなと。
大手であれば、いろいろ仕事が分かれている中、たとえば営業であれば販売だけを任されていることがあると思います。
しかし我々の営業であればお客様のニーズに合わせて、いいアイデアがあれば、それを企画して商品化できることもありえます。
また大手にはほとんどないとは思いますが、集金業務というものもあります。
そういう意味では0から最後まで仕事ができるし、そういった楽しさはあると思います。
――ありがとうございます。
新卒に求めるスキル、またはこんな思いを持っている人に入ってきてもらいたい。などありますか。
社長:まず必須なのが、「あいさつができる人」、「最低限のマナーを身につけている人」ということですね。
これがなければ、仕事をする以前に取引先のみならず、社内でも良好な関係を築くのは難しいですから。このことは弊社に限ったことではなく、
どこでも共通のことだと思います。
あとは、やはりやる気があって、自発的に動ける人ですね。
受け身ではなく、自分で考えて動ける人と一緒に働きたいですね。
――それではそんな就活生にむけてメッセージをお願いします。
社長:はい。
特に京都で就職を考えている方にむけてなんですけども、京都はすごく面白い地域です。
京都は我々みたいな中小から、さらに規模の小さい企業、また世界でも有名な大企業などがいっぱいあるので、
これだけそろっているのは面白いと思うんですよね。
また我々の和装のような伝統産業のほかハイテクな半導体、車系、など多種多様な業種がありますが、ネームバリューではなく、自分の目でしっかり確かめてみることが大事であると思います。
後は本当に自分がなにをしたいかで選ぶことが重要だと思います。
まとめ
急なインタビューにも関わらず、取材を快諾してくださった安本武司商店さん。
メールのやりとりも、インタビューの際も物凄く丁寧で、私たちにお気遣い下さり、リラックスしながらお話できました。
社長の仰られていた、「凄いスキルよりまずは、礼儀」。
この「礼儀」が人に与える印象や影響がこんなにも大きいんだと感じました。
私は日本人なのに和装業界のことを今まで、あまり知りませんでした。
しかし今回のインタビューで和装業界の実情と安本武司商店さんの魅力をたくさん知ることができ、インタビューの途中から自分が話を聞き入っていることに気が付きました。
就活を頑張っている学生のみなさん、安本社長も仰るように先入観にとらわれることなく、様々な企業のお話を聞いてください。
自分に合う素晴らしい企業がきっとみつかるはずです。
【株式会社安本武司商店】
所在地 |
〒600-8070 京都市下京区堺町五条上ル俵屋町228-1 |
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創業・設立 |
創業:昭和14年 設立:昭和38年3月 |
事業内容 |
-繊維事業 -ホテルモンドンス京都五条 |
ホームページ | http://www.yasumoto.jp/ |
連絡先 |
TEL:(075) 351-2766 Fax:(075) 351-7150 Email: saiyou@yasumoto.jp |